道具を使う(後編)
もう一つ、こつをつかむまでに苦労したのが「電動ジグソー」でした。
この時期になると、HOMARE(ほまれ)の材料は木材ではなくアクリルに変わっていました。アクリルは大きな分け方をするとプラスティック製品ですから、切断するときの熱で溶けてしまいます。従って、アクリルを切る場合、ガラスを切るときと同じように、表面に深い傷を付けて、折るようなイメージとなります。
しかし、HOMARE(ほまれ)はそのほとんどが曲線で出来ていますので、アクリルカッターでは対応しきれません。使用に適していないことは重々承知の上、我々は電動ジグソーを使って切り出すことにしました。耐久性に優れたアクリルはとても硬く、なかなか刃が先に進みません。しかも切ったそばから「カス」が溶けてくっついてしまうのです。そう、海氷に閉じ込められてしまう船のように。
全てを書くと長くなるので割愛しますが、これも道具の特性を知ることで、かなり上手に使えるようになりました。
「道具を使う」という言葉を私たちは普段使います。
でも、私が経験から手に入れた極意は
「道具に仕事をさせる」ということです。
道具にはそれぞれ得意とする機能があり、その機能を最大限発揮させ、上手に仕事をさせるのが我々、人の役目だったのです。
「使う」という頭で考えると、自分の言うことを聞かない道具に腹も立ちますが、道具はその実力を発揮しようと、与えられた力でいつでも一所懸命に仕事をしているのです。
実は私の本業でも素晴らしい道具を使います。
「機能的に数百年も前に完成した道具を使うことと、最新の工具を使うことに、まさかこのような共通点があるとは‥!」
HOMARE(ほまれ)プロジェクトが始まったときは想像すら出来ませんでした。
道具たちは静かに、そしていつでも懸命に自らの実力を発揮しようとしてくれていた。
そう考えると、私を助けてくれる道具たちにとても深い愛情を感じます。
私の普段使っている道具は、そして本業は何でしょう。
もうおわかりですね。いつも使っているのはヴァイオリンです。読売日本交響楽団団員、ヴァイオリン奏者なのです。
そしてもう一つ肩書きが増えました。㈱HOMARE(ほまれ)R&D担当です。
幼稚園の卒園記念品として、カセットテープに将来の夢を一言ずつ入れました。
私は「機械会社になりたい!(入りたい)」と入れたことを覚えています。もちろんこれは、機械を使って何か物を作る仕事に就きたいという意味です。
ヴァイオリン奏者を職業に出来たことだけで、大変な幸運に恵まれたのですが、人生の折り返し地点に至って幼稚園の頃の夢まで叶えさせてもらえたことは、本当に幸運としか言いようがありません。
HOMARE(ほまれ)プロジェクトに賛同し、ご協力くださった方々のお力が無ければ、とても実現できなかったと、、、心から感謝しております。
また、HOMARE(ほまれ)の肩当てをご使用くださる方々の健康と、一層の音楽人生の充実を祈り、感謝の意とさせて頂きます。