日本の「誉」〜多くの共感と夢のあとおし。
平成最後の年に産声をあげた、肩当て「HOMARE」のきっかけは、私(二宮)の小さな思い付きだった。
親戚付き合い以上に親しい同僚と、ホームセンターで買った2×4建材を削ることから始めた「HOMARE」プロジェクトは、これまで沢山の人々に支えられて商品化に至る。
「HOMARE」の製作を統括してくれる担当者は、国内外の超一流企業から精密部品の受注をする会社の、やり手営業マンだ。やり手の営業マンと聞くと、効率優先の冷徹な人物のように思うかもしれないが、実に人間味あふれる好人物で、多忙な時間をやりくりして我々素人の話しにも耳を傾けてくれるのだ。そればかりか、専門用語が飛び交う「その業界」で少しでも通用するように、図面の書き方やルールなどを懇切丁寧にレクチャーしてくれたのである。
この会社から派生したのが、本体のアクリル板整形を担ってくれている、2020年には、その道一筋60周年を迎える仙人だ。
一見、物性に見合ったマニュアル通りの作業だから、単純労働の様に思うかもしれないが、時代に対応できる革新的な頭脳の柔軟さと、気の遠くなるような経験と実績を必要とする職業だ。我々の試作品を持ち込んで「こんな風に作ってほしい。」と依頼したら、ほぼ思った通りの、そして宝石の様に美しいものを作ってくれた。
ただし、「量産は出来ない。」という苦言も同時に下さったのだが。。。
この時を転機に大幅なモデルの刷新を行うことになった。
同時に各部パーツの作りこみに入るのだが、担当してくれる彼が人脈を駆使して、百分の数ミリ単位、実際は「こんな感じ。」を実現してくれる職人を探し出してくれたのである。
乗用車で快適な空間を演出するのは、身体に接する座席と地面と接するタイヤである。
身体に接する「スポンジ」と、楽器に接する「足」は、肩当てでも同じではないか。
偶然とはいえ、開発者も想像していなかったことなのだが、このどちらにも共通する要素は、「ズレない」「適切な弾力」そして「アレルギーを起こさない」ことだ。
ウレタン(スポンジ)、金型整形(足)、どちらも工業製品を納めてきた会社で、対「人」ましてや対「弦楽器」など想定したことなどなかったはずだ。
両社の担当者は、我々の話を聞きながらずっと頭をひねっていたことだろう。
だが、打ち合わせや工場を見学した時の、社員や工員の皆さんのとても積極的な、活き活きと仕事をする姿に我々は心を打たれ、多少の無理は承知の上で、クリアしなければならない条件を突き合わせて行く。
納得がいくまでに数度のリトライを要し、採算から外れるような作業工程を経て、唯一無二の精度を持った「座席」と「タイヤ」を完成させてくれたのだ。
偶然というのは得てして重なるものだが、どちらの会社もほぼ創業60年である。
お気づきとは思うが「HOMARE」は特許申請中の商品である。
私が肩当ての神様から啓示を受けた瞬間、特許を出願しない事には話しを進められないと分かっていたのだが、またもや一人の知り合いからすべてが動き出すことになる。
ある日、懇意にしている大手保険会社の外交員さんと世間話をしている時、「HOMARE」プロジェクトのことを熱っぽく語ったら、「とても力強い税理士さんを紹介してあげようか?」と、思ってもいなかった提案を受ける。
ここからは、一気呵成という言葉でしか表現が出来ないほど、目まぐるしく状況が動いて行った。自分たちの足で漕いできた車輪に、勝手にエンジンを搭載されたような感覚だ。
大手保険外交員さんから紹介された大手税理士事務所で、大手知財事務所を紹介され、特許申請と事務所の登録、そして会社の登記までが一瞬のうちに整ってしまったのだった。
小さな思い付きから始まったプロジェクトが、こんなにも沢山の人々の共感を呼び、能動的な協力をもらい、大勢のプレイヤーから期待されるようになるとは、夢にも想像していなかった。
ただ、同僚と木を削りながら、夢として語っていた頃(ころ)から絶対に揺らがなかった信念が、一つだけある。
「人のためになりたい」
我々が打ち合わせで話すことは、どの工場でも、どの事務所でもすべて同じである。
「こんなに素晴らしい物が出来たら、ものすごく沢山のプレイヤーが幸せになるんです。日本の音楽文化がさらに発展し、それによって人生を豊かに出来る人たちが何千、何万人と増えたら、日本は今よりももっと幸福な国になります。」
この純粋な気持ちを再確認させてくれたのは、我々がとても尊敬する楽器職人で、研究と製作の為に、深夜はおろか、明け方まで工房に詰めているような人なのだ。
何十年も、ただ純粋に良い音を作る事だけを目標に、あらゆる分野の研究を重ね、大小の差はあれど、心に傷を残すトライ&エラーを繰り返す。それがたとえ一歩よりも短くても。その姿勢を見て、少しでも良いものを提供しなければ、と思いを強くしたものだ。
「HOMARE」はご想像の通り漢字の「誉」という意味である。
始めは、商品の成功を願って命名したのだが、我々の想いに共感し、後押ししてくれた多くのプロフェッショナル達が、持てる技術や知恵を惜しみなく提供してくれたおかげで、想像をはるかに超える素晴らしいものを作り上げることが出来たのだ。
まさに日本の「誉」として、世に産み落とされたものなのです。